宇宙水爆戦

聖咲奇

販売元: エスピーオー
販売元: エスピーオー

  私はこの作品が大好きである。「何故?」と訊かれると答えられない。明確な理由が思い浮かばないのだ。そりゃ、この作品の良い所は、すぐに10や20は上げられるが、それらは、物心が付いてから考えた事で、初見の時に思った事ではない。

  この作品が製作されたのは1955年、日本公開が遅れても56、7年だろう。私は1952年生れ、当時4、5歳である。難しい事など判ろうはずもない。すると、何処が、そんなに気に入ったかというとやはりビジュアルであろう。インタロシタ(通信機)の、無骨ながら機能美とも云える美しさ、円盤の円盤らしいシンプルさ、そして何よりもあのミュータントの奇怪で漫画的なリアリティ。幼い子供の眼はそれらの破天荒なビジュアルの向こうに何か"時代"の様な物を見ていたのかもしれない。

  55年と云えば、その前年アメリカがビキニ環礁で水爆実験をしており、世界的にも水爆が話題になっていた。邦題の「宇宙水爆戦」はそんな世相を反映しているが、インパクトのあるタイトルではある。原題はもっと宇宙的で、「この島なる地球」である。宇宙を大海にたとえ、地球は単なる島に過ぎず、他にも島はあるのだと言う含みである。

  ちなみにこの作品、レイモンド・F・ジョーンズの「エイリアン・マシン」と云うSF短編が原作となっている。1949年6月にアメリカのSFパルプ雑誌「スリリング・ワンダー」に掲載された。これはインタロシタを組み立てるまでの物語になっていて、それ以降は別の2つの短編「シュラウド・オブ・セクリシー」と「グレート・コンフリクト」を基にしている。この2本に前述の「エイリアン・マシン」を加えて平和的、物理学者カル・ミーチャムを主人公にした3部作となる。映画公開後、「この島なる地球」つまり映画と同じタイトルで単行本も発行されている。

  さて、肝心のミュータントだが、デザインしたのは、元ディズニースタジオのアニメーターだったミリセント・パトリック(彼女は世界初の女性アニメーターでもあった)、「それは外宇宙からやって来た」「大アマゾンの半魚人」に続く仕事だった。ミュータントのデザインは「それは外宇宙から・・・」用にデザインされた宇宙人が元になっているが、設定を昆虫の変異体にした事で、当時SF小説で人気のあったBEM(バグ・アイド・モンスター)の完璧なビジュアル化となった。

  そして、この作品、円盤がメタルナ星にアプローチするシーンの合成で、計測器とカメラを連動させて撮っていると聞いた。つまり、ローテクのモーション・コントロールをやっているのである。と、まぁ、こう言う事は成人してからアメリカで聞き込んできた事で単なる知識に過ぎない。この作品はそんなトリビア的な面白さだけではなく、実にSF的な広がりを持った作品だし、それは、ワンダーを見抜く子供の感性とそこからイメージを広げる大人の感性がなければ味わえない快感だろうと思う。 

作品データ

【スタッフ】監督:ジョセフ・M・ニューマン 製作:ウィリアム・アランド 原作:レイモンド・F・ジョーンズ 脚本:フランクリン・コーエン
【キャスト】フェイス・ドマーグ ジェフ・モロー ラッセル・ジョンソン

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著者プロフィール

聖咲奇(ひじりさき)

 1952年生まれ、京都府出身。『宇宙船』(朝日ソノラマ)の創刊に立ち会い、構成・執筆を担当。SF・ホラー映画やガレージキットを紹介し、日本でのブームに貢献する。著書に『フラッシュ・ゴードンの思春記』『神骸都市』(竹田啓朔名義)『電子頭脳映画史』等がある。