スピードレーサー

奥田誠治

販売元: ワーナー・ホーム・ビデオ
販売元: ワーナー・ホーム・ビデオ

「スピードレーサー」を立川シネマシティへ見に行く。見たいとは思っていたが、ハッと気付くと最終日だった。あまり話題になっていなかったようで失念していた。予告のけばけばしさで私自身も正直馬鹿にしていた。立川の夕方の雑踏をいそぎ、ぎりぎり最終回に間に合った。

 始まるとぶっ飛んだ!! これぞ正常進化版「マッハGoGoGo」完結編だ。

 流れるテーマ曲まで昔と同じ。~♪風も震えるヘアピンカーブ怖いものかとゴーゴーゴー~♪である。

 イントロでレーサーを夢見る主人公(少年時代)が授業に身が入らずノートのパラパラ漫画に熱中するあたりでこれは監督:ウォシャウスキー兄弟(マトリックスなど)の「マッハGoGoGo」へのオマージュであることがはっきりする。

 

 物語はきわめて単純。

 主人公で天才的ドライバーのスピードレーサー:エミール・ハーシュ(三船 剛)はレース中に命を落とした兄、レックス・レーサーの幻を追ってレース界の頂点を目指す。スピードの愛車は“マッハ5”それを作った父と家族、恋人トリクシィ:クリスティーナ・リッチと共に悪の巨大企業に立ち向かう。権力者たちはあの手この手でレーサーの行く手を阻む。奇怪なレーサーたちが個性的なマシンで闘いを挑む。迫る暗殺忍者軍団。危機に陥ったときにそれを助けるのは正体不明のレーサーX:マシュー・フォックス(覆面レーサー)だ。ハイテクレース場でのバトル、砂漠のラリー、アルプス越え、地底レース(インカ地底レースを思わせる)、氷の洞窟レースの危機を脱してレーサーはゴールを目指す。

 

 と、いった感じでこれはもう当時の文芸、鳥海尽三さんの世界。キャラクターも、これほど似させるかと思うほどのサービス。主人公エミール・ハーシュ(三船 剛)の前髪。ジョン・グッドマン(お父さん)は、生き写し。スーザン・サランドン(お母さん)はいつもと違い控えめの芝居でこれもそっくり。クリスティーナ・リッチ(志村ミチ)はアニメキャラに、なりきり。くり坊も三平のギャグもイメージ通り。

 当時キャラクターデザインの久里一平さんにはアメリカンコミックに対する憧れがあり、タツノコプロのキャラクターには、そのバタ臭さがつきまとっていた。(紅三四郎、ガッチャマンなど)それが虫プロ、東映、TCJ、と違った持ち味だった。そのバタ臭さがアメリカで受け入れられオマージュとして日本に里帰りして来た。

 ウォシャウスキー兄弟の思い入れは半端ではない。高度なVFXを駆使しているにもかかわらずマシンの爆発には当時のイメージがうかがえる。脇役キャラも当時のタツノコのイメージだ。脈絡もなくかっこよくスカーフをなびかせる女巫女、暗殺者集団の忍者、ギャング達、どれをとってもタツノコキャラだ。レーサーを中心にスピンするマッハ5は使い回し(兼用)の定番。やたらに使うワイプ(Wipe)処理。マッハ5の秘密兵器はオリジナルのまま。

 ジャパンアニメの苦肉の策、くり坊、三平のアクションでは流動パンまで見せてくれる。がっしりと腕を組んだお父さんに敵がぶつかるカットは、昔、私が描いた気がする。エンディングは笹川さんのイメージそのままだ。

 ただ、惜しむらくは最後のレースで盛り上がる曲が「マッハGoGoGo」テーマではなかったことだ。それにしても息をつかせず2時間を見せる。傑作だ!

 

 私は当時(1967~68)絵コンテでこの作品に関わっていた。多分、(タツノコはスタッフ資料が残っていない作品もあるので)三分の一近いコンテを描いていたのではないかと記憶している。

 遅れたシナリオのスケジュール合わせに、文芸、鳥海さん宅で徹夜作業、翌朝玄関に現れた脚本家の広瀬正さんを紹介された。その時はまだ広瀬さんがSF作家であるとは知らなかった。鳥海宅の応接間に飾ってあったスチールモデルのクラッシックカーの作者だと紹介されていた。お二方とももう居ない。特に広瀬さんは早くに人生を終わった。

 その広瀬正さんの文庫「マイナス・ゼロ」が2008年7月18日に復刊された。

 奇しくも「スピードレーサー」公開中にである。

 私は「マイナス・ゼロ」の作中人物になって昭和を生き続けているような気がした……これだから人生は面白い。シネマシティを出ると水銀灯に照らされたモノレールの高架の先が闇に溶け込んで、過去と未来につながっていた。

作品データ

【スタッフ】監督:ウォシャウスキー兄弟
【キャスト】エミール・ハーシュ クリスティーナ・リッチ  ジョン・グッドマン スーザン・サランドン マシュー・フォックス 真田広之

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著者プロフィール

奥田誠治(おくだせいじ)

 1943年生まれ、東京都出身。数多くのアニメの絵コンテを描き、その本数は日本最多を誇っている。アニメの監督としても活躍。監督作品には『ドリームハンター麗夢』『超獣機神ダンクーガ』等がある。