サンダーバード

池田憲章

販売元: ジェネオン・ユニバーサル
販売元: ジェネオン・ユニバーサル

『サンダーバード』の9つの魅力

 1966年4月10日、NHKでオン・エアされた『サンダーバード』第1話を見た時のショックは昨日のように覚えている。

 1966年は円谷プロの『ウルトラQ』『ウルトラマン』が放送された年だが、受けたインパクトは互角ともいうべき大きさだった。

 全32話を見終わっても、第1話を見た時の作品イメージはついに変わらなかった。箇条書きにすれば、以下のようになるだろう。

 

1.21世紀を実感させる巨大メカが続出

 第1話のマッハ6を誇る超音速原子力旅客機ファイアーフラッシュ(正式名称はMark6 アトミック・エアライナーと続く。カッコイ~!)。どんなジャングル地帯でも巨大な足で進撃するアメリカ陸軍の秘密兵器である歩行兵器ゴング、太陽のプロミネンス観測のため太陽に近づく有人宇宙船太陽号、ニューヨーク再開発のためエンパイヤステート・ビルを抱いて移動する巨大原子力マシーン、進みながらジャングルの木を切り、パルプに変えていく移動パルプ工場クラブロッガー……次々に登場する巨大メカに仰天した。このゲスト・メカの魅力を抜きに『サンダーバード』は語れない。


2.奇想天外なストーリーのアイデア

 着陸脚に爆弾をつけられたため、胴体着陸するファイアーフラッシュを走りながら受けとめる滑走路上のエレベーター・カー。太陽を調査するため、太陽に接近する有人宇宙船計画サン・プローブ。世界一の600階のトンプソン・タワーが火事に包まれ、閉じ込められた人々に危機が迫る……と1970年代に流行した『ポセイドン・アドベンチャー』『タワーリング・インフェルノ』のパニック映画の先取りともいうべきレスキュー・ストーリーが続出した。これだけダイナミックに、空に、海に、陸に、宇宙に巻き起こる大災害を描いたTVドラマはTV史上初めてであった。そして、その後も現れなかった。


3.国際救助隊のメイン・メカの魅力

 可変翼を持ち、ミサイル状で発進し、マッハ20のスピードで飛び、着陸時には翼を広げVTOL着陸する偵察、移動司令部が役割のサンダーバード1号。タマゴ型のズン胴のボディに、救助メカを内蔵したコンテナ(英語ではPOD)をはめこみ、災害現場に到着して救助メカを発進させる輸送機サンダーバード2号。宇宙救助を担当する宇宙ロケット、サンダーバード3号。2号により運ばれる水中災害救助用の潜航艇サンダーバード4号。世界中のSOSを受信して、国際救助隊の目と耳になる衛星軌道上に浮かぶ宇宙ステーション、サンダーバード5号。この主役の5台のメカがまず衝撃的であった。それまでのSFヒーロー・TVでは、主役メカはまず万能メカ1台で、空海陸自在となりがちであった。それがサンダーバード1号は偵察機、サンダーバード2号は輸送機で、しかもそれでかっこいいのである。

 1号の可変翼、VTOL発進、窓ではなくTVモニターで外部を見る計器飛行、機体の姿勢に合わせて操縦席を水平に保つジャイロ機構、2号は前進翼、タマゴ型のリフティング・ボディのユニークさ。デザインのスマートさではなく、役割の明解さが本当のメカの性能なのだと痛感させた。円谷プロはたちまちこの作品の影響を受け、『マイティジャック』『ウルトラセブン』のウルトラホーク1~3号を作り出した。メカニックの設計思想さえ見える香りがあって、この主役メカの見せ方に魅了された。日本でこのメカの見せ方を完璧にクリアーしていたのは『サブマリン707』『青の6号』の漫画家小沢さとるぐらいだったのだ。


4.1時間というストーリーのデラックス感

 世界的に見ても、1時間ワクの人形劇でSFムード満点という作品は珍しい。人形劇でなくても、特撮、アニメとしてもそうはないだろう。アーウィン・アレンが製作したファミリー向けのSFTV『原子力潜水艦シービュー号』『宇宙家族ロビンソン』『タイムトンネル』ぐらいなものか。子供向け番組としては、空前のデラックス作品であった。

 1時間という長さがあるため、スケール感あふれるストーリー、ゲスト・メカにからむキャラクターのドラマをふくらませ、ミニ映画ともいうべき大型作品のイメージを残せた。この当たり前のこと、1時間の特撮人形劇をあきさせない脚本、撮影、演出のスタッフと映像の力を第一に特筆しておきたい。


5.国際救助隊の救出メカのおもしろさ

 エレベーター・カー、磁力けん引車、ジェット・モグラと2号のコンテナの中から登場する毎回の救助メカがいくつもの見せ場を作り出した。今回はどんな新しい救助メカがコンテナから出てくるのか、ドキドキしたものだ。エレベーター・カーは3台の1台が故障して、一度は作戦が失敗するサスペンスのもりあげも見事で、この救助できるかというスリルが子供達だけでなく、大人をもハラハラさせたのである。


6.ファミリー物という設定の絶妙さ

 国際救助隊は、トレーシー島に住むジェフ・トレーシー一家の家庭を中核とした組織である。もちろん科学者のブレインズ、美しきロンドン・エージェントのペネロープ・クレイトン・ワードやパーカーと他のメンバーもいるが、この家族を中心にした設定が不思議なファミリー物、兄弟物のタッチを生み出して作品に人間の暖みを与えていた。これは同じジェリー・アンダーソンが製作した『宇宙船XL-5』(1961)『海底大戦争』(1963)とくらべて見るとよく判る。おそらく裏設定として飛行機事故のような事故でジェフの妻である母親が亡くなっているのではないか……と思われるが、ファミリー物のタッチはシリーズの随所に続出した。


7.全編に流れる明るさとユーモア

 すぐれた映画には、必ずユーモアが入っている。イギリスはユーモアとエスプリを愛する国だが、『サンダーバード』にも大人のユーモアのセンスが常に生き続けていた。

 例えば、ブードゥー教の達人で、国際救助隊の秘密を狙う陰謀団のフッドは、テロリストとしてかなりの実力の持ち主だが、ペネロープが出動すると必ずぺしゃんこにやられてしまう。このイギリス貴族に半分敬愛をこめたペネロープというキャラクターにスタッフが託したのは、単なる子供番組に終わらない大人のストーリーのタッチを彼女で見せることであった。このペネロープの声を原語版で演じていたのは、ジェリー・アンダーソン夫人のシルビア・アンダーソン副プロデューサーで、彼女は全編のセリフ(ダイアローグ)の監修も行ない、密度の高いセリフを次々と作っていった。原語版ではジェフの子供達は父を「パパ」「ダディ」「ダッド」「ファーザー」と一人一人言い変え、「はい」という返事も「OK」や「ヤア」「イエッサー」「ハイ」と使い分けた。5人の息子全てが学校や軍隊、海難救助隊と一人前になる時歩んだコースが違うため、セリフにその影響が出ているという設定だ。ここまでセリフに気を使った作品は少ないだろう。初放送がNHKで、きれいな日本語をという注文も良い結果を作りだしていた。日本語版の翻訳・木原たけし氏、演出・加藤敏氏も原語の英語のイギリス・タッチをセリフに充分生かしきった。今日、日本語版が再見に耐えうるのも東北新社とNHKのドラマ経験がある俳優をレギュラー陣に多く参加させたNHK側のスタッフの力であった。このセリフで見せるドラマの魅力は『謎の円盤UFO』等他のアンダーソン作品も全く同じであった。


8.発進シーンとバリー・グレイの音楽

『サンダーバード』で驚いたのは、メカニックの発進シーンですら、しっかり作ればビジュアル的にも見ごたえ満点に見せ場になるという空前の演出方法であった。重量感あふれるバリー・グレイ作曲の音楽は、まさに音楽の聞かせ所として、すばらしい曲を書いており、その秘密基地から1号、2号、3号に乗り、発進していくプロセスの見せ場に私達ファンはびっくりしてしまったのだ。デレク・メディンクス特撮監督は、それまでも『スーパーカー』(1960)でエンジンを次々に点火してエネルギーを上げ、VTOL発進するスーパーカー、『宇宙XL-5』(1961)でレール状のトランスポーターから発進していく宇宙船XL-5、『海底大戦争』(1963)のスクランブル発進でドックの原潜スティングレイへ椅子ごとトロイ達が移動し、水中に船体を沈め、トンネル状の射出口(トンネルの中を光点が進む描写が抜群)と発進シーンをバリー・グレイの音楽と共に見せたが、『サンダーバード』はその総決算であり、決定版となった。ドック内のリアルなヨゴシぶりもみもので、秘密基地という存在のおもしろさを私達は、まさにこの作品の特撮で痛感したのだ。このイメージは、日本SF映画に決定的な影響を与えた。円谷プロのメカニック描写と発進シーン(ファンがワンダバと呼ぶアレだ)、東映動画の『マジンガーZ』以降のロボット発進シーン、サンライズの『超電磁ロボ コンバトラーV』(製作は東映)、『機動戦士ガンダム』の出撃シーン等、もうオリジナルも知らない人でも一つのスタイルとして定着した。東宝特撮にも『海底軍艦』(1964)の伊福部昭音楽とダイナミックに組んだ発進シーンはあるが、『サンダーバード』も映像はこのジャンルの方向を決定した。


9.21世紀の世界の香り

 ここまであげた全ての要素が21世紀という未来の日常の中でしっかりと描かれた。そこがこの作品の最大の魅力だった。 たしかに新兵器やヒーロー達だけが未来的な作品はなくはなかった。『原潜シービュー号』『宇宙家族ロビンソン』『タイムトンネル』『巨人の惑星』『スタートレック』……。だがその中で未来世界の日常までは描かれなかった。『鉄腕アトム』や『遊星仮面』『スーパージェッター』とアニメは描いたが、これはリアル感にとぼしかった。ところが『サンダーバード』には、21世紀の世界観をしっかり描こうという明解な意識があった。

 超音速機のSST、TV電話(第1話のフッドが顔を見せない音声オンリーで使うリアルさ、ここまでは普通やりませんよ)、21世紀なのにまだ対立している東西両陣営、大西洋の石油を掘る海上ステーション群……とダイナミックに日常の小道具も含めて、未来のタッチを生み出した。その作劇の気迫が“大人の作った娯楽シリーズ”というプロフェッショナルな香りを作品に生み出したのだろう。『サンダーバード』については、飛行メカの操演のおもしろさ、人形劇なのにまるで人間ドラマというノーマル・ポジションの撮影と照明の工夫、爆発シーンやVTOL発進や着陸の火薬表現と音響設計の厚みと迫力、美術と小道具の奮戦、ブリジッド・バルドーを顔のモデルにしたというペネロープのファッションで見せるスーパー・レディの魅力……といくらでも書こうと思えば書ける。合成シーンがあれだけ少なくてあのスケール感を出していたのだから、そこもすごいと思う。人形劇がたどりついたスケール感では、もちろん世界最高で伊達にスーパー・マリオネーションと言われるのも嘘ではないのだ。

 今井科学のプラモデルで作品の知名度がこれだけ上がったのだから、実はキャラクター・モデルのシリーズ化としても新時代を開いた作品である。『サンダーバード』はモデルの出来もよく(それまではTVの中の本物と似ても似つかなかった)、今日の『ガンダム』『パトレイバー』へと続くリアル再現のプラモデルを手中にした時の楽しさを初めてSFTVで感じさせてくれたTV作品だったのである!

作品データ

【スタッフ】製作総指揮:ジェリー・アンダーソン 設定:ジェリー&シルビア・アンダーソン 音楽:バリー・グレイ 美術監督:ボブ・ベル 特殊効果総監督:デレク・メディングス

【キャスト】ジェフ・トレイシー:小沢重雄 スコット・トレイシー:中田浩二 バージル・トレイシー:宗近晴見 ジョン・トレイシー:桜井英一 ゴードン・トレイシー:和田一壮 アラン・トレイシー:剣持伴紀 ブレインズ:大泉滉 ミンミン:里見京子 レディ・ペネロープ:黒柳撤子

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著者プロフィール

池田憲章(いけだのりあき)

 1955年生まれ、埼玉県出身。アニメ・特撮評論家。このジャンルにおける草分け的な存在で、東宝特撮作品、円谷プロ作品、東映ヒーローもの、海外ドラマ等、さまざまな分野に関する膨大な知識を誇っている。