境界線上のホライゾン

廣田恵介

販売元:バンダイビジュアル
販売元:バンダイビジュアル

 黒丸尚という翻訳者がいた。『ニューロマンサー』や『ウェットウェア』などのサイバーパンクSFを日本に紹介し、「話にのる」という意味の俗語を「波に乗れる」「波れる」と訳したセンスの持ち主である。黒丸さんのセンスに近いな、と思った。『境界線上のホライゾン』に何の説明もなく会話にまぎれこむ「ジャッジ」「テス」などの俗語のことだ。そして、ストーリーの「二次情報」をふんだんに盛り込む姿勢も、どこかサイバーパンク文学っぽい。「二次情報」とは、つまり、シューティング・ゲームで敵をロックオンするとアイコンが表示されるでしょ。裸眼で見る世界にレイヤーが一枚かぶさる、あの感じ。

 例えば、空中にディスプレイが現れるような拡張現実的な表現は、『境界線上のホライゾン』では基本中の基本だ。というか、その程度の表現なら、今までのアニメにもあった。各キャラクターの武装や術を駆使した戦いが見せ場となる本作では、「空中に現れるディスプレイ」が、戦闘力の表現へと進化している。簡単なところでは、「防壁」と表示されたディスプレイは、そのままバリヤーを意味する。その「防壁」ディスプレイを空中に何枚も重ねると、「すごく強い防御をしている」と分かるでしょ。でっかい盾を持ってくるのは一次情報だが、「防壁」ディスプレイは、二次情報。二次情報がスタンダードになっている世界は、丸ごとゲーム空間に浮かんでいるような、不思議なリアリティがある。

 戦闘に参加するのは、パワードスーツを着込んだ美少女から巨大な剣を持った格闘ゲーム風のキャラ、巨大ロボット、果ては魔女まで、実に多彩。だが、彼らが同じ世界に属しているのはディスプレイを見れば明らかだ。彼らが加速するさいには、「翔翼」と表示されたディスプレイが足のかかとに表示される。それが三枚重なれば「より大きく加速している」表現になる。土煙が上がったり、キャラの足元がブレたり、古典的な表現の上にディスプレイが重なる。二次情報が入ることで、より「その世界」の構造が立体的・重層的に見え、戦闘シーンがグッと面白くなる! ……ストーリーが、さっぱり分からなくても。

 彼らは、術や技をお金で買ったり、あるいは神様に奉納することで獲得したり強化したりする。その理屈を僕が理解できたのも、実はセリフと同時に表示されるディスプレイのお陰だったりする。

『装甲騎兵ボトムズ』でロボットがリアルに感じられたのは、火薬や圧力で各パーツが駆動する物理的描写があったから。同じサンライズ制作の『境界線上のホライゾン』のリアリティは「情報の表示」から生じる。ディスプレイという「二次情報」を手描きの絵に重ねる演出は、撮影工程がデジタル化され、「レイヤー」という概念がアニメに持ち込まれなければ、生まれなかったはずだ。これこそ、まさに21世紀の戦闘表現!

 まずは見てほしい。

作品データ

【スタッフ】原作:川上稔 キャラクターデザイン原案:さとやす 監督:小野学 シリーズ構成:浦畑達彦 アニメーションディレクター:藤井智之

【キャスト】葵・トーリ:福山 潤 P-01s:茅原実里 本多・正純:沢城みゆき 葵・喜美:斎藤千和 浅間・智:小清水亜美 ネイト・ミトツダイラ:井上麻里奈

商品リンク

著者プロフィール

廣田恵介(ひろたけいすけ)

 1967年生まれ、東京都出身。アニメ・ムックからグラビア誌まで何でも手がける、フリーランスの文筆業。