ラストエグザイル -銀翼のファム-

廣田恵介

販売元:フライングドッグ
販売元:フライングドッグ

 戦車のプラモデルに惹かれたのは、どんなキットでも、横に立てて飾るための兵士のフィギュアが付属していたからだ。小さなハッチから、上半身だけ乗り出しているフィギュアでもいい。メカニックの大きさを分からせるには、とにかく対比物を置くことだ。


 CGで造形された空中戦艦が活躍する『LAST EXILE』は2003年の作品。空の上を戦艦が飛んでいるだけでは、巨大感が伝わりづらい。そこに登場するのが、主人公たちの乗る小型飛行艇「ヴァンシップ」。翼のない複葉機のようなデザインで、キャノピーはない。吹きっさらしのコクピットなので、主人公たちの挙動は丸見えだ。人間とヴァンシップが視覚的に対比できるお陰で、さらにその何百倍も大きな戦艦のスケール感が分かるわけだ。

 さて、2011~12年にかけて放映された続編『ラストエグザイル ―銀翼のファム―』の主人公たちも、ヴァンシップに乗っている。技術が進歩して、より小型化が進んでいるという設定だ。どのくらい小さいかというと、空中戦艦の機関部に潜りこんでしまえるぐらい。そのシーンは、『スター・ウォーズ ジェダイの復讐』で、建造中のデススター内部に突入するミレニアム・ファルコンそっくり。CG技術の進歩のおかげで、あんな面倒なシーンが、深夜アニメで見られるようになってしまったのだ。


 だが、僕が感心したのは、そのシーンではない。

 物語は、大型の空中戦艦を何十隻ももつ連邦が、小さな王国の艦隊を襲うシーンから始まる。画面を覆いつくすぐらい大量の戦艦、自国を失った王女。この「対比」を軸に物語は進む。王女は、先ほど書いた小型ヴァンシップを駆る空賊たちに助けられるわけだ。

 さて、王国を葬った連邦とは、いったいどのくらい大きな国なのか? 大きな戦艦を大量に並べただけでは、国の大きさなど表現できない。僕が「おっ」と思ったのは、巨大な戦艦を指揮していた司令官たちが食事するシーンなのだ。この人たち、小さな豆のようなお菓子をつまみながら、作戦会議をしている。

 その頃、空賊のアジトでは、まだ若い主人公たちが巨大なジャガイモをガツガツ食べているのだ。普通、敵の凶暴さを演出しようとしたら、悪役に大食いさせる。『銀翼のファム』では、逆をやっているのだ。小さなヴァンシップに乗る主人公たちこそ、いっぱい食べないと大空を飛ぶような胆力は出ない。

 逆に、途方もなく大きな戦艦で悠々としている連中は、小さな豆を食べることで余裕を感じさせる。

 つまり、戦艦がでかかろうが、ヴァンシップが小型化しようが、人間の大きさだけは変えようがないわけだ。だけど、アニメはプラモデルじゃないから、「人物に芝居させる」ことで作品の世界観を表現できるのだ。大きな戦艦を動かしている連中が、ちまちまと豆をつまんでいるから、世界の大きさが画面から伝わってくるのだ。身ひとつ、無防備な格好で空を駆ける連中が大食いするから、彼らのがんばりように感情移入できるのだ。体ひとつ、食べ物ひとつ、食べ方ひとつで、根拠薄弱な「異世界」は、いかようにも強固に演出できるのである。というか、それが出来てこそ「演出」だ。

 諸君。アニメを見るなら、そういう細かいところをよく見て、そこから世界の広大さを深呼吸するように感じようではないか!

作品データ

【スタッフ】監督:千明孝一 シリーズ構成:吉村清子 キャラクターデザイン:村田蓮爾、堀内 修、高岡じゅんいち プロダクションデザイン:小林 誠

【キャスト】ファム:豊崎愛生 ジゼル:悠木 碧 ミリア:茅野愛衣 リリアーナ:沢城みゆき ルスキニア:興津和幸 アラウダ:松風雅也

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著者プロフィール

廣田恵介(ひろたけいすけ)

1967年生まれ、東京都出身。アニメ・ムックからグラビア誌まで何でも手がける、フリーランスの文筆業。